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シルクスクリーン職人インタビュー「刷り込まれる職人の心」

伊藤利江のスケッチやコラージュを元に作られた「シルクスクリーン」。それはすべて信頼を置く職人たちによって生み出されています。伊藤の描く手書きの余韻が残るよう熟練の技で版を作り、微細な色の指示にも真摯に対応してくださるベテラン職人さんに、今回はじっくりとお話を聞いてきました。

「昔はメッシュの部分に絹(シルク)を使っていました」

BIRDS’WORDS(以下 BW):– 知らない方も多いと思うので、まずはシルクスクリーンとはどういうものか教えてください

職人さん(以下 職):簡単に説明すると、スクリーンというメッシュ状の生地に、インクが通る所と通らない所を作って版にします。その上にインクをのせてスキージー(インクを刷り込ませるハケのような道具)で撫でてあげると、インクが通る所からだけインクが落ちて版の下にある素材にインクが刷り込まれるという技法ですね。

BW:名前にシルクとついていますが、昔は絹(シルク)を使っていたんですか?

職:そうですね、昔はメッシュの部分に絹を使っていました。でも絹の糸は半年くらいしか保たないんです。綿などからしたら強かったんですが、とても劣化が早く版が長く持ちませんでした。今はポリエステルが材料として使われるようになり主流となっていますね。ステンレス製のメッシュもあるんですよ。

BW:使っている版はとても目が細かいんですね

職:メッシュの荒さは物によって判断して変えていますが、1インチ(約25.4mm)の中に縦糸と横糸がそれぞれ200本ほど並んでいるとても細かいものです。でも細かければ良いというものでもありません。インクの粒子の大きさにも関係しますし、それだけ詰まりやすくもなりますからね。

「どんな仕事を持ってこられても出来るという幸せ」

BW:シルクスクリーン印刷はどんなものに使われる事が多いのですか?

職:シルクスクリーン印刷はいろんな所に使用されています、携帯の画面やボタン面にある印刷もそうなんですよ。定規だとか下敷き、機械銘板、操作パネルのプラスチック部分などは多いと思います。小さいプラスチックの製品ですね。文字を刷ったりベタを刷ったり、シール状にする為にシルクスクリーン印刷で糊を引く事もあるんです。仕事はほんとに多種多様ですね。

職:もともとシルクスクリーン印刷の会社は印刷するものの種類などで別れていたので、うちではプラスチックへの印刷は出来るけど紙は出来ないとか、布には印刷は出来ないとか…ものによって印刷が出来る会社と出来ない会社があるんです。私は幸か不幸か40年以上の中で全てを経験してきましたので、どんな仕事を持ってこられても出来るというのが幸せですね。

BW:この仕事を始められたきっかけは何ですか?

職:私は絵を見るのが好きだったんです。浮世絵とか版画が好きで。一時絵を描きかけたんですけどやっぱり難しくて。親の鉄工所を継ごうとしていたんですけど、学校の友達の就職先がシルクスクリーンをしている会社で、バイトをしないかと誘われたのがきっかけです。

職:最初に連れて行かれた時には印刷されたカルピスやコーラの看板などがたくさんあって、これはおもろい仕事だとのめり込んだんです。やっぱりこういうものが好きだったんですね。21歳の頃からそこでお世話になって25年です。独立してからもう20年になりますね。

「臭いはきついし手は汚れるし…でも楽しい仕事です」

BW:それまではシルクスクリーン印刷についてはご存知だったんですか?

職:全然知りませんでした。でもそういう知識はあったんです、原版があってそれを映すような技法は。会社に入ってから最初の4年くらいは調色ばっかりをさせられていました。でも私にはそれが良かったんです。普通の会社は刷る作業から始めるんですけど、私がいた所はまずは難しい色合わせを覚えさせられました。刷る事については3年くらいの経験でわかってきますので。ちなみに昔は全部手刷りです、1000枚でも2000枚でも手刷り。

BW:全ての事が出来るようになるのには、ものすごく時間がかかるんですね

職:そうですね、とにかくこの仕事は好きじゃないとできないです。臭いはきついし手は汚れるし…でも楽しい仕事です。

BW:印刷する為の版もこちらで作られていますが、印刷屋さんはみんな版を自分で作られているのですか?

職:版は製版屋さんで頼んで、印刷だけ自分の所でするというところもあります。今は割合的には半々くらいですかね。昔は版を作るのと印刷するのとは全部別れていました。でも、製版屋さんでしてくれるものは出来のいいのと悪いのがありますので、我々が要求するような版をあげてくれない場合があるんです。版によって線の滑らかさや美しさが左右されるので、それでは我慢できないということがあって自社で版を作るようになりました。

職:シルクスクリーンの印刷は原稿通りのものをあげるというのが基本です。スクリーンを通して印刷するので、元より悪くなって当然なんですが、それを極力元に近い状態で渡せるようにしたいというのが基本的な考え方ですね。

「色合わせが一番やっかいですね」

BW:今では機械で刷る事も出来るようですが、違いはあるんでしょうか?

職:機械の方がひとつひとつが均一に仕上がりますね。でも機械だからといっても倍ほどは早くならないんです。機械の場合は数が多くないものはしないんですよ。セットするのにとても時間がかかるんでね。下手をすると版を破ってしまうので、スキージーの加圧や条件をきちんと揃えてあげないといけないから手間もかかります。

BW:シルクスクリーン印刷の難しい所を教えてください。

職:色合わせが一番やっかいですね。色を指定されて出来るだけそれに近い色を作らないといけないですが、これは本当に多くの経験が無いと出来ません。色は全てメーカーのインクを掛け合わせて作っています。調色した色でサンプルを見せてオッケー頂いてから、調色時のメモを元に色を作るんですが、そこからは他の人間でも作れるんです。

グレーやその辺りの中間色にはインクが5色6色混ざってくるので難しいですね、作った時の見た目と乾燥した後とで色が変わるのもあって本当に苦労します。でも色を作る時の感覚は長年の経験でしか培えないんです。インクメーカーはある程度の色しか作らないですから、そのインクの特徴を知ってから調合しないととんでもない色に進んでいきます。インクメーカーごとでも全部特徴が違うので、製品によって相性を見てどこのメーカーにするかを決めていくんですよ。

BW:バーズワーズのシルクスクリーンで難しい点はありましたか?

職:やっぱり色ですね。今回の新色は特に難しいです。どの色もインクを4色くらい混ぜてできてますから。淡くて微妙な色合いが多いので気を使います。何度もやる中で、版を作る上での線の細さとかそういうものはもうわかっていただいているので製版は大丈夫なんですが、本当に色の管理が半分以上です。バーズワーズさんは色に厳しいですよね。でも一緒に仕事をしている息子もバーズワーズさんのシルクスクリーンいいねって言ってますよ。

インタビューを終えて

たくさんのインクや版に囲まれ淡々とシルクスクリーンを刷っている職人さんは、大変な仕事ながらとても楽しそうに見えました。仕上がりに満足いくようとても丁寧に対応してくださる所から見ても、この仕事への誇りや愛情が感じられます。

何よりも作っている職人さんがバーズワーズの作品を良いと思ってくださっていることがとても嬉しく思いました。撮影時に刷っていただいた、新作のシルクスクリーンに関しても、色の微調整を重ねて納得のいく仕上がりとなりました。是非手に取られた際には、職人さんの長年の経験によって再現された色調や、美しく刷り上がった線の輪郭など、じっくりご覧頂けると嬉しいです。

バーズワーズのシルクスクリーン

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INTERVIEW

バーズワーズの工房案内

鳥たちが生まれる場所

2009年、大阪の街中にある小さな工房にて夫婦二人で始まったバーズワーズ。その工房で現在、作家・伊藤利江とともに働く制作スタッフへのインタビュー。

陶磁器・原型師

見つめる型への想い

10年以上前に伊藤がひとつずつハンコを押して作り上げたカップ。そのカップをもとに生まれたPATTERNED CUPを共に作り上げてくださった原型師さんへのインタビュー。

シルクスクリーン職人

刷り込まれる職人の心

伊藤利江の描く手書きの余韻が残るよう熟練の技で版を作り、微細な色の指示にも真摯に対応してくださるシルクスクリーン職人さんへのインタビュー。

伊藤利江

鳥と陶芸

BIRDS' WORDSの全ての作品を生み出す陶芸作家・伊藤利江。アトリエにて作り出す彼女の作品との向き合い方や想い、人となりなどを感じていただけるインタビュー。